苦労して採用した人が、数週間で辞めてしまう。採用に力を入れている会社ほど、この悩みは重く感じられます。辞める理由は人それぞれですが、現場を見ていると、言い出せずに悩みをためたまま、ある日突然「辞めます」と言うという流れが少なくありません。
入社したばかりの人は、わからないことがあっても「こんなことを聞いたら迷惑かな」と遠慮します。会社の側は「何も言ってこないから大丈夫だろう」と思います。このすれ違いが、早期の退職につながりやすいのです。
そこでこの記事では、入社した人が辞めにくくなるように、会社の側から声をかける3つのタイミングを紹介します。特別な制度は要りません。短い一言と、短い時間があれば始められます。
なぜ「声をかける側」から動くのか
新しく入った人は、まだ職場の人間関係ができていません。誰に何を聞いていいのかもわからず、困りごとがあっても自分から切り出しにくい状態です。
そのため、「困ったことがあれば何でも言ってね」と伝えるだけでは足りないことがあります。言われた側は、困っているかどうか自分でもよくわからないまま、「大丈夫です」と答えてしまうからです。
声かけの要点は、聞く内容と時期をあらかじめ決めておくこと。そうすれば忙しい日常の中でも、忘れずに続けられます。
1つ目:入社の前日
最初のタイミングは、入社の前日です。入社が決まってから初日までの間、新しく入る人は期待と不安でいっぱいです。この時期に一言あるだけで、初日の朝の気持ちはずいぶん変わります。
伝えること
- 集合の時間と場所
- 持ち物と服装
- 最初は誰と一緒に動くのか
たとえば「明日は〇時に〇〇へ来てください。最初は〇〇さんと一緒です」という内容です。連絡手段は、電話でもメッセージでも構いません。相手がいつも使っている手段を選ぶと、見てもらいやすくなります。
効果
初日にいちばん怖いのは、「誰に声をかければいいのかわからない」ことです。最初に一緒に動く人の名前を知っているだけで、初日の朝の不安が小さくなります。
2つ目:入社1週間後
2つ目は、入社して1週間ほど経ったころです。仕事にも少し慣れ、でも自分から質問するのはまだ難しい、という時期にあたります。
声かけのポイント
この時期の声かけは、仕事の外で行うのがコツです。作業中に「何か困ってる?」と聞くと、周りの目もあって、本音は出にくくなります。休憩中や帰りがけなど、仕事から少し離れた場面で聞きます。
- 「困っていることはない?」
- 「先輩の教え方でわかりにくいところはない?」
- 「通勤や体調は大丈夫?」
聞いたあとの対応
聞くだけでなく、その場で答えを出せるものは出します。すぐに解決できなくても、「それは確認して明日伝えるね」と返せば、相手は「聞いてもらえた」と感じます。反対に、聞いたのに何も変わらないと、次は話してくれなくなります。
辞める人の多くは、言い出せずに悩みをためています。1週間という早い段階で一度、話せる場をつくっておくと、悩みが小さいうちに拾えます。
3つ目:入社1か月後
3つ目は、入社して1か月ほど経った時期です。最初の緊張がゆるみ、同時に「自分はちゃんとできているのだろうか」という不安が出てきます。
10分の面談をする
ここでは、短い面談の時間をとります。10分程度で構いません。やることは2つです。
- できるようになったことを1つ伝える:「最初は道具の名前もわからなかったのに、今は準備を任せられるようになったね」のように、具体的に。
- 次に覚えることを1つ決める:あれもこれもではなく、1つだけ。「来月は〇〇を一人でできるようになろう」と伝える。
人は、自分の成長が見えると続けやすくなります。反対に、褒められもせず、次の目標もないまま日々が過ぎると、「この先どうなるのか」がわからず、不安になります。できたことを1つ、次の課題を1つという小さな形でも、先が見える感覚が生まれます。
声かけを続けるための工夫
3つのタイミングは、決めただけでは続きません。忙しい現場では、後回しにされがちだからです。
- 入社日が決まった時点で、前日・1週間後・1か月後の日付をカレンダーに入れておく
- 誰が声をかけるのかを決めておく(社長、現場の責任者、先輩など)
- 声かけの内容を、短いメモに残しておく
メモは、あとから「あの人はあのとき何に困っていたか」を振り返るのに役立ちます。担当者が変わっても、引き継げます。
声かけで気をつけたいこと
声かけは、相手を評価する場ではなく、困りごとを拾う場だと決めておきます。話を聞いている途中で「それは甘えだ」「みんなやっている」と返してしまうと、相手は二度と本音を話さなくなります。まずは最後まで聞き、受け止めてから、できることを一緒に考えます。
また、聞いた内容を本人の許可なく他の人に広めないことも大切です。安心して話せる相手だと思ってもらえて初めて、次の声かけが意味を持ちます。小さな会社では、社長や責任者が直接聞くほうが話が早い場合もあれば、年齢の近い先輩のほうが話しやすい場合もあります。相手に合わせて担当を選んでください。
求人で伝えたことと、実際の差を減らす
声かけで聞こえてくる不満の中には、「聞いていた話と違う」というものが混ざることがあります。これは声かけの工夫だけでは防げません。求人票や採用動画で伝えた内容と、実際の仕事の差を小さくしておくことが大切です。
大変な面も含めて、事前に正直に伝えておく。そのうえで入社してもらい、入社後は声かけで支える。この両方がそろうと、早期の退職は起きにくくなります。
まとめ
- 新しく入った人は、困っていても自分からは言い出しにくい。会社の側から声をかける
- 入社の前日は、集合の時間・場所と「最初は誰と一緒か」を伝え、初日の不安を小さくする
- 入社1週間後は、仕事の外で「困っていることはない?」と聞き、悩みが小さいうちに拾う
- 入社1か月後は、10分の面談で、できるようになったことを1つ伝え、次に覚えることを1つ決める
- 日付をカレンダーに入れ、担当を決めておくと続けやすい